独り言

本当に独り言です

口内炎の巻

暗い視界の端から、

細い光が差し込んでくる。

いつの間にか目の上に乗せていた腕を退けると、

いつも見ている少し汚い白い天井が見えた。

そうか、

私は眠っていたのだ。

 

サークルの会室に置いてあるソファに横になったのはついさっきのことなのに、

時計の針は30分も進んでいる。

無機質な空調の音と、

ホコリの匂い。

鼻呼吸をしていたはずなのに、

喉がだいぶ渇いて痛い。

今すぐにでもお茶を飲んで口を潤したいが、

あいにく買っておいたお茶は寝る前に飲み切ってしまった。

テーブルの上には空のペットボトルが散乱している。

私は諦めて口内で絞り出した唾を飲み込む。

依然として渇ききった喉。

鮫肌のようにざらつく舌先。

 

徹夜に近いことをしたら、

あっという間に口内炎ができた。

痛い。

食事中じゃなくても、

いつでもどこでも鈍い痛みを伴っている。

こっちは君に構っている暇はないんだ。

やることがあるんだから、

しばらく大人しくできないものか。

口内炎を宥めるために、

コンビニでビタミンゼリーを買って飲む。

味はまぁまぁ。

これで口内炎が治るなら、

それに越したことはない。

 

意外と口内炎は私に従順な様で、

夜、昼、夜と2日間で3回ビタミンゼリーをぶち込んだら、

すんなり大人しくなった。

君が素直なやつで本当によかった。

できれば早く治りきってくれないかな。

4日後には焼肉を食べる予定があるんだ。

君のせいでせっかくの焼肉を台無しにするわけにはいかない。

 

ついでに言うと、

下唇の先に君がいるせいで、

私はずっと甘噛み状態で会話をしなきゃいけない。

徹夜の疲れも相まって、

恐ろしいくらい口が回らない。

思考が口を置き去りにする。

中途半端に成形された状態で、

僕の口から飛び出した言葉は、

誰の耳に届くこともなく、

2メートル先の地面に落ちる。

輪郭が曖昧になった言葉は、

誰にも見向きされない。

 

終電まで時間はないが、

ふと見上げた夜空に目を奪われる。

冬の方が星はたくさん見えるけれど、

夏の夜空も捨てたものじゃない。

街灯の光が暗闇に散乱して、

夜空に届く前に形を失う。

帰り道は虫の匂いと、

小学生の頃必死になって探した樹液の匂いがする。

とんだ東京の端くれ大学だ。

賑やかな森を抜けて、

夜を歩く。