自然の巻
バスの車窓から見えていた木々は、
いつの間にかビルに代わっていた。
5日ぶりの東京。
そこはとても無機質で、
樹液に群がる虫のように、
人でごった返していた。
「東京ってつまらないね」と君が言う。
私は灰色の街を眺めながら、
「そうだね」と呟く。
お世話になった宿舎の廊下に、
イナゴ(これは私が命名したものであって、種族名として本当にイナゴなのかは私の知るところではない)が出没した。
急に動かなければ虫もかわいいものだ。
ほろ酔いの人間の笑い声の中に、
虫の鳴き声が聞こえる。
別に合宿所に特別な思い入れがあるわけではないが、
なんとなく懐かしい気持ちにはなる。
1年に1度しか行かないけれど、
全てが見たことあるものばかりで、
得体の知れない安心感がある。
半強制的に文明と遮断され、
小さな街の小さな体育館でひたすらに卓球に打ち込む。
1時に寝て7時に起きる。
3食ご飯を食べる。
6時間の運動。
少し熱すぎる風呂。
とても自然だ。
知らない間に左足の太ももが腫れている。
また何かの虫に刺されたのだろうか。
痛みはないが若干の痒み。
煩わしい。
こういう時に田舎は困る。
地元に帰ってスーパーの裏を歩いていたら、
地面から出てきて羽化する前のセミが、
一生懸命アスファルトの上を歩いていた。
ねぇ。
君は東京がつまらないと言ったけど、
案外東京も捨てたもんじゃないよ。