独り言

本当に独り言です

川の巻

物心ついた時には、

生活のすぐ側に川があった。

 

家のベランダから大きな川が見えて、

その川はそのまま海へと繋がっていた。

自分の中でなにかあった時は、

ひとりで川を見に行って、

水面の近くに腰掛けて、

ただひたすらに静かな水面を眺めていた。

川はなにかしてくれる訳でもないし、

そこまで綺麗な川でもないけれど、

心が荒んでいる時には、

ただ川面を眺めるその時間が、

私にとって大切な時間だった。

 

今日も大学の帰りに川に寄った。

別に特段なにかあったわけではないけど、

なんとなく最近川に行ってなかった気がして。

お気に入りのaikoの曲を、

百均のイヤホンから垂れ流す。

水面に映る灯りの向こうに、

誰かの影を見てしまいそうだ。

私はその人の影を見ることを期待しているはずなのに、

私の外の私がそれを止めさせる。

そこに人の影を映すのは、

醜いからやめなさいと、

私の外の私が言う。

 

この気持ちが果たして正常なものなのだろうか。

いや、

正常であるわけがない。

答えのない「正しさ」を、

雑踏の中に求めるくらいなら、

異常であった方がましだ。

でもそこで異常でいるのは勇気がいることで、

その醜態を口に出してしまえば、

間抜けに開いた口から漏れる空気は、

冷徹な風に攫われて、

紅潮する頬は憐情に叩かれる。

目がくらみ、

足が竦む。

 

このままでいられる喜びと、

このままでしかいられない哀しみに挟まれて、

私の居場所はどこにもない。

その先に待つ世界の景色を見るのが怖い。

果てしない輝きも、

終わらない闇も。

 

水面に道標を探しても見つかるわけはなく、

街灯の薄明かりの下を、

音楽を聴きながら歩く。

 

落ちる雨に映るふたり

世界は誰も知らない