独り言

本当に独り言です

夜道の巻

都会の汚れた空気は、

大学生の罵声と酒とゲロの匂いを含んでいた。

5年前からこの街はこんな街だけど、

やっぱり私はこの空気が苦手だ。

足早に駅前のロータリーから、

閑静な住宅街に逃げ込む。

 

久しぶりに夜道を歩いている。

特に意味はない。

終電まではあと1時間ある。

十分だ。

 

車の排気ガスの匂いと、

足元で踏まれた薄汚い銀杏の匂いが混ざる。

秋の入口としては、

かなり攻撃力の高い匂いだが、

大学生の酒とゲロの匂いよりはマシだ。

 

なにか意味があったかもしれないし、

なかったかもしれない。

そんな会話を30分程して、

携帯を閉じる。

大学生の影は闇に消えて、

巨大な鉄筋の摩天楼が、

私を夜の街へ誘う。

 

終電まであと20分。

2駅歩くにはギリギリな時間だ。

 

古い池の溝のような匂いが鼻を突き刺し、

誰がために走るかわからない大型トラックの轟音が耳を劈く。

摩天楼に迷い込んだ私は、

ただのちっぽけな人間で、

何ができるわけでもなく、

家を目指してひたむきに歩く。

 

ビルのせいで空の高さを見誤る。

街灯のせいで池の深さを見誤る。

闇に歯向かう摩天楼の灯りを後目に、

私は地下への階段を、

ゆっくりゆっくり降りてゆく。

 

師走の坊主のように、

慌ただしく走るサラリーマンと警備員。

そんな気も知らずに悠々と歩く私を、

不安げに見つめる警備員がいる。

こんな奴ひとりくらい、

放っておけばいいのに。

律儀な仕事だ全く。

 

終電に乗り込んで無事に帰宅する。

短い旅。