郷愁の巻
2つ上の先輩が、大学を卒業した。
生憎世間を騒がせているウイルスのせいでそれもなくなってしまったが、卒業生と上級生と食事をする機会があったので、私は春と冬の空気が混じった新宿に繰り出した。
自分より歳が上の人達と集まって食事をしたのが久しぶりだったし、この数週間まともに人と会っていなかったので、とても不思議な感じがした。
懐かしいというか、私はこの人たちと最低でも数ヶ月を共にしていたわけであって、その空間が1年前、ないし数ヶ月前まで当たり前だったのに、そういう機会がきっと今日で最後になること、また、その当たり前の場に蔓延る少しの違和感が、なんとも言えない雰囲気を作り上げていたのだ。
話は大方思い出話と就職活動の話に従事していた。
メンツは私が1年生の時となんら変わっていないのに、私はもう3年生になろうとしているし、頭の片隅には就活という言葉がそろそろ勝手に居座り始める時期になってきたのである。
どうも心地が悪い話だ。
今の自分と1年生の頃の自分が交錯していく。
この温室のような快適な空間にずっと縛られていたい。
自分が誰かの年上であることも全て忘れて、ただ上を見上げるだけでいられるこの気分が惜しい。
不可逆的な時間というレールに乗って、あの頃の2個上の代に自分が近づいて行っている感覚が苦しくて、このレールを降りることができたらどれだけ楽だろうかと考える。
思い出話に花を咲かせて酒を飲み、そのまま会はお開きになって、終電に煽られて現実に向かっている途中にふと思った。
間違いなく私はあの空間で1年生でいたかったし、しかし私はもう二度と1年生ではいられなかったのだ。
そう思うと、少し寂しかった。