艶陽の巻
今日は約2週間ぶりに外に出た。
自宅軟禁生活にも我慢の限界が来て、1日だけ散歩をすることにしたのだ。
ベランダに出れば外には出れるが、ベランダに立つのと地面に立つのでは訳が違う。
窮屈からの脱却。
上を見ると広い空がある。
今はもう、ちょっと前の清く透き通った冬の空から、少し霞がかった淡い穏やかな春の空に完全に切り替わっている。
地元の小学校のグラウンドからは、児童の元気な声が飛んでくる。
つかの間の休息。
川に沿って歩いて、公園の中を突っきる。
草木はもう夏に向けて準備を初めているみたいだ。
我々にはまだ春すら来ていない。
実際はもう通りすぎているのに。
短すぎる春。
ろくに満開の桜を見ることもなく、バーチャル花見と言っては、画面に浮かぶ桜色に間接的に触れるだけ。
写真に映れば桜は見えるけど、写真で風は感じられない。
春のあたたかい風に前髪を奪われながら、風にふわりと運ばれていく花びらを眺めたかった。
レジャーシートに座って、お弁当箱からおにぎりを取り出して、春風に舞う花びらを追いかけるわんぱく少年少女の姿にふと顔が綻ぶその瞬間に、本当の春がやってくる。
明日にはどうやら緊急事態宣言が出るらしい。
これじゃあ冬に逆戻りだ。