静寂の巻
街から音が消えた。
うるさい車の音も、朗らかな子供の声も、飛行機の音も、学校のチャイムも消えた。
そして、外から聞こえる音は、1日2回防災無線から流れる外出自粛の呼び掛けと、17時の夕焼けチャイムだけになってしまった。
外から入ってくる音が少なくなった分、家の中の音が大きく聞こえるようになった。
廊下を歩く足音、蛇口から流れる水音、窓が開く音、肉が焼ける音…
テレビの音量は、外出自粛前より少し下がった。
リビングという空間を埋めるために、そこまでたくさんの音は必要なくなってしまった。
音は今までよりも自由気ままに、伸び伸びと部屋の中を駆け巡る。
自室にいてもリビングでの両親の会話が聞こえるようになった。
隣人のピアノの音も聞こえるようになった。
家族の携帯のバイブレーションも聞こえるようになった。
外出自粛で、他人と生活空間が重なり続ける状態がかなり長くなった。
そして、他人の音が常に聞こえるようになったから、逆に自分の音を流すことにも抵抗がなくなった。
音楽を、イヤホンからじゃなくてスピーカーで流すようになった。
YouTubeの後で見るリストに入っていた曲が、どんどんスピーカーから流れていく。
4日間で100曲ほど消化した。
やることはあるけど、何も手につかない。
ただ、部屋の中に漏れ出ていく音楽に浸かるだけ。
それだけで、1日が過ぎていく。
それだけでも、1日は過ぎていく。