音頭の巻
雷が落ちた。
予兆はその1時間以上前からあった。
穏やかに晴れていた空に、少しずつ雲が漂ってくる。
わたあめの作り始めのように、小さい種が段々まとまって、それが大きい雲を呼び寄せる。
午前中の濃い世界から打って変わって、どんよりした薄い世界になった。
遠くから、雷様の音頭が聞こえてくる。
じわじわと近寄ってくる雷様に対して、蝉たちは戦いて鳴くのをピタリとやめてしまった。
しばらくすると雨が降り始めた。
カーテンを閉めた訳でもないのに、部屋の明かりが急に落ちた。
少し向こうの空にはまだ橙が残っているけれど、ここはもう雷様の行列のすぐ側だ。
雷様の音頭が大きくなってくる。
窓の外の街は雨に濡れている。
窓を閉めているから、雨の香りは入ってこない。
銀鼠色のアスファルトが、ゆっくりと鈍色に変わっていく。
何気なく窓の外を見ていた、その時だった。
一瞬の閃光から、間髪入れずに大きな雷鳴が轟いた。
光り輝く弓矢が視界を駆け抜け、その直後に巨人が足を振り下ろしたかのような凄まじい爆音が響いた。
耳が揺れる。
街は、一瞬にして静寂に包まれた。
先程まで聞こえていた雨音も聞こえない。
木々が揺れる音も、蝉のなく声も聞こえない。
全くの乱れのない、1本の平坦な波形が街全体を繋いでいた。
その後、まず最初に雨音が返ってきた。
オーケストラの演奏を聞いた後の拍手のように、最初は小さく、そこから段々大きくなってゆく。
そして、みんなが頃合を見計らって拍手をやめるように、雨脚も段々と引いていった。
しばらくして、空に光が戻ってきた。
蝉の鳴き声も返ってきた。
夕焼けチャイムが鳴った時には、そこはもういつもの日常だった。
そして、雷様の音頭はもう戻って来なかった。
[今日のプログラミング勉強時間] 4時間
[累計] 54時間