海岸線の巻
明日締切のレポートから逃げるために、散歩に出かけた。
外は雲ひとつない青空。飛行機が近い。
久しぶりに海に来た。
何となく海は青色だと思い込んでいたけど、近くまで行って覗いてみたら思ったより緑色だった。
浅瀬に小さな魚が泳いでいるのが見える。
堤防の端に腰掛けて、しばらくかもめの狩りを眺めていた。
特定の場所で旋回しては、海に近づき、何も取れずにまた上空に戻る。
鳥になりたいと考えたことはあるけれど、こうやってみると鳥も案外楽じゃなさそうだ。
リラックスするために散歩に来ているのに、あまりリラックスできた感じがしない。
ずっとどこかに力を入れていないと、何かが崩れてなくなってしまうような気がした。
鳥を見たり飛行機を見たり、上を向くことが多かったはずなのに、空を見上げた記憶があまりない。
むしろ、海岸線を歩いた時の足元の方が覚えている。
海岸線には多くの岩が並べられていて、海との接線をぎこちなくしていた。
岩の陰には海の切れ端が隠れていて、そこには深い闇も一緒に同居している。
岩の端っこは濡れていて、迂闊に踏むと滑って転んでしまう。
平行な足場のない岩場を、僕は夢中になって歩いていた。
滑りたくなくて、濡れたくなくて。
海は目と鼻の先だったのに、結局海の水を1度も触れずに帰ってきてしまった。
11月の海は冷たいのだろうか。
何もかも全部忘れて海に飛び込んだら、僕は一体何を覚えるのだろうか。