独り言

本当に独り言です

クラーケンの巻

大学のHPに「冬季休暇は1月6日まで」と書いてあったから、頑張って早起きしてPCの前で待機していたのに、授業の開始時刻を過ぎても一向に授業が始まらない。

大学の先生が自主的に冬休みを延長してくれたのであれば万々歳だが、単に先生も正月気分が抜けていないだけで、少し遅れて授業が始まる可能性もある。そう思って、ひたすらにHPをリロードしながら授業が始まるのを待っていた。

 

今日は風が強かった。

家中の隙間という隙間を風が通り抜けるせいで、一日中小学生が吹く下手なリコーダーみたいな音がしていた。

木の葉が落ちきって枝ばかりになってしまった木々も、大きく左右に揺れている。

 

公園の砂が風で巻き上げられて、近くのマンションの7,8階くらいの高さに到達していた。その動きはまるで大海で獲物を食らうクラーケンのようで、滑らかに、かつ、大きく動く触手と、その中心に大きく開かれた口が見えた。

近所の幼稚園の子供と、マンションのベランダに干された洗濯物は、きっとクラーケンの餌食になってしまっているに違いない。可哀想に。こういう時はコタツに入って防御を固めるに限る。ぬくぬく。

 

それにしても、授業は始まる気配がない。

クラーケンの捕食シーンを後目に、私の視線は再びPCに戻った。いくらリロードしても、HPはうんともすんとも言わなかった。

1時間目の授業が始まって、もう30分は経っている。

ここで諦めても何も問題はないのだが、一応2時間目には出席をとる授業が控えているから、このまま今日は授業がないと決めつけてPCを閉じてしまうのは少しリスクがある。

 

しょうがないので、私はPCを開いたまま、また窓の外のクラーケンに目を戻した。

クラーケンの動きは獰猛さを増しており、果てには公園の砂を全部引き剥がしてしまうのではないかとさえ思えた。

 

大きな触手が1本、鞭のようにしなって地面を叩いた。

砂煙が街を覆う。

そんな光景を見ながら、私は自分が小中学生じゃなくてよかったと思った。

小中学生の頃の私なら、朝から公園を駆け回って、このクラーケンの餌食になっていただろう。

それに比べたら、コタツの中という絶対的安全圏にこもってHPとにらめっこをしている今の私なんか、かわいいものだ。

 

結局、HPが動くことはなかった。

私が大学の年間スケジュールを確認して、今日が臨時休校日だと知ったのは、1限開始予定時刻から3時間も後のことだった。