独り言

本当に独り言です

悪夢の巻

結局、私が雪に染まる街並みを拝むことはなかった。

なぜなら、東京でも雪が降っていた(かもしれない)時間帯、私は悪夢にうなされていたのである。

世界線が違えば私は鬼退治によって全国的なヒーローになるところだったが、生憎ここは無限列車ではなく都心から少し外れた場所にあるマンションの一室。圧倒的な実力ととっつきやすい人柄で国民的英雄になる夢は潰えたが、ここでひとつ、私を幾度となく襲う悪夢の話をしよう。夢であるため、肝心な部分が曖昧だったり、論理が飛躍したりする部分もあるが、ご承知頂きたい。

 

夢の中の私は、襟の詰まった学ランのようなものを着ていた。恐らく中学生だと思うが、背にランドセルを背負っていたから小学生なのかもしれない。

私は学校の教室を出て、1人で下駄箱に向かって階段を下っていた。どうやら私は他の生徒から仲間はずれにされているらしく、私の周りには人っ子一人寄りつかない。皆私に蔑視を向けながら、私に近づかないよう遠回りをして階段をそそくさと駆け下りて行った。学校の空気は深い灰色に染まっている。私の仲間はここにはいないようだ。

 

私が下駄箱に向かう長い階段を降りていると、突如“悪夢”のような、おぞましく、そして不可解なことが起こった。

私の斜め前を歩いていた生徒の左肩が破裂したのである。

先程まで普通に友人と会話をしていた少年の左肩が一瞬にして空気が入れられた風船のように膨らみ、そして破裂した。少年の左腕が宙を舞い、血飛沫が学校の壁を赤く染める。彼はそのまま絶命して階段にパタリと倒れ、周りにいた女子生徒の叫び声が校内中に響き渡った。

 

私はその時、これは何かしらの超能力者か霊能力者、あるいは“悪魔”かその類の力を持つ者の犯行と考えた。そして、それは他の生徒にも共通していたらしい。全ての生徒が、見えない何かから逃げるように一斉に駆け出した。私もその中で一生懸命外の世界を目指して階段を駆け下りたのだが、その道中でも悲惨な光景を目の当たりにした。ある者は右膝が、またある者は左腰が破裂し、腹部中央に風穴が開いた者や、ついには頭部が破裂した者までいた。校内は、灰色の空気に赤紫色の血が混じり、どす黒い雰囲気が漂っていた。

 

なんとか命からがら下駄箱までたどり着いた私は、そのままガラス戸を突き破って外に出ようとしたが、異様な雰囲気に飲まれてはたと立ち止まった。

後ろを振り返ると、他の生徒達が怯えるような目で私を見つめ、息音をも漏らさんとばかりに口を閉ざしている。

その時私は初めて、自分がこの事件を引き起こした“悪魔”、その張本人だったことを悟るのである。

 

ここで不覚だったのは、私があまりにもこの夢に耐え切れずに起きてしまったことであり、そのせいでこの夢の続きを見ることはなかった。

しかし、私の記憶の限りでは、私はこれと似たような夢を、不定期的に数年前から複数回見ている。なぜこんな悪い夢を複数回にわたって見なければならないのか、甚だ疑問ではあるが、そうは言っても見てしまうのだから仕方がない。

せめて見るなら、もう少し明るく楽しい夢を見たいものである。