遠足前夜の巻
何日も前から、同じ店のホームページを何度も見返している。
近所で評判のパン屋。明日、朝イチで行く場所である。
こういう買い物をする時、私はいくつになっても遠足に行く小学生の気持ちに戻ってしまう。
大事なのはバナナがおやつに入るかどうかではない。予算の中に収まるように、どれだけ満足度の高い買い物ができるかどうか、である。
予算。
だいたいのおやつが10円〜100円で買える時の300円に比べると、だいたいのパンが200円〜400円で買える時の600円は圧倒的に自由度が低い。
前者であれば、うまい棒を全種1本ずつ買ったり、でかいお菓子を1個と小さなお菓子をいくつか買ったりと、買い方にもよるがおおよそ5〜10種類のお菓子が買える。
しかし、後者であれば頑張っても3つが限界。数多あるパンの中から3つだけを選ぶのは至難の業だ。
そういう時、私は事前にホームページを見て、何を買うかシミュレーションを繰り返す。どうすれば欲しいパンが買えるか、何を選択すれば一番食べ合わせが好ましいか。最適解を求めて幾度となくシミュレーションを行う。
ただ、その一方で、私はどれだけ事前のシミュレーションを重ねたとしても、当日お店に行ってしまえばシミュレーションなど関係なくめちゃめちゃ迷ってしまうことを知っている。ホームページで見るものと、実際に見るものは、同じであり、別物なのだ。
理論上の数値と実測値には必ず誤差が出る。このことはちゃんと心に留めておかなければならない。
準備万端の状態で私は寝床につく。
明日は久しぶりに早起きが必要だ。果たして私はちゃんと早く寝られるのだろうか、そして、ちゃんと早起きできるのだろうか。
心の中でパンが踊る。私の眠れない夜は刻々と過ぎていくのであった。