不格好の巻
雨が、降っていた。
映画を見るために出かけた私は、凍えるような寒さに身を震わせながら、普段は乗らないバスに乗り込んだ。
映画館までは、バスと電車で合わせて1時間弱。
最終目的地しか知らないバスに揺られて、私は黙って窓に流れる水滴を見つめることしかできなかった。
駅に着くと、雨は止んでいた。
私は広げようとした傘を閉じて、傘を杖のようにして再び歩き出した。
不思議だ。
足なんか全く怪我していないのに、傘を持って歩くと、私はひどく不格好な歩き方しかできない。
人間と傘では主従関係が明らかなのに、傘の方が私の歩き方を規定しているように思える。
傘を持っている右手側の足を少し引きずるようにして、私は映画館までゆっくり歩いた。
今日の私は、なんだかとても不器用だった。
初めて行く場所でもないし、久しぶりに出かける訳でもない。
それなのに、私はなにか改まったように、無駄に背筋を伸ばして、ずっと遠くを見ていた。そして、何かにひどく怯えながら、そして、それを隠そうとして必死に振舞っていた。
電車の窓に映った私は、痩せこけた木のようだった。
それは、とても頼りない姿だった。