キャンパスの巻
歩き方は忘れても、帰り方は覚えてるんだよな。
久々の通学。
駅を抜けて門をくぐると2つの新館のお出迎えにあった。元々そんな所に建物はなかったのに、あいつらは素知らぬ顔で飄々と立っている。
葉桜が風に揺れる。
新入りを後目に、キャンパスの奥へと足を進める。
歩き慣れた道なのに、足取りに戸惑いが見える。
この戸惑いは、ただ前を歩く集団に追いつかないよう意図的に歩幅を狭めているから起こるものなのか、それとも急に白々しい顔をしてくるキャンパスとの距離感を測り損ねているのが原因なのか。
答えは分からない。
一人でいる時間が長すぎて、たくさんの人がいる空間にストレスを感じるようになりつつある。
この感情は自己防衛か、はたまた羨望か。
キャンパスで同期と再会。つかの間の安息。孤独からの解放。
柵にとまった雀を愛でる。
デッキの上から広がる風景を眺める。
キャンパスの大きさと身体感覚の整合性が復元されてゆく。
駅前の新入り2名を除けば、キャンパスは1年前から大して変わっていない。
学部棟も、デッキ下の通路も、銅像も、ベンチも、山も。
人が勝手にいなくなっただけで、人が勝手に変わっただけで、キャンパスは何も変わっていなかった。
漠然とした安心感。広がる空。
またいつか、機会があれば会えるといいね。