独り言

本当に独り言です

共生の巻

薫くん、聞いてくれよ。最近僕は同棲を始めたんだ。

 

へぇ〜、実家暮らしの君が同棲ねぇ。

で、お相手は誰なんだい?

 

てんとう虫。

 

てんとう虫?

 

そう、てんとう虫。黒くてちっちゃいやつなんだけどね。

 

そうか、どうやら僕は君のことを少々誤解していたみたいだね。君にまさかそんな性癖があるとは知らなかったよ。

 

薫くん?君は何か思い違いをしていないかい?これはただ、僕の部屋の中に数日前からてんとう虫が迷い込んでいるっていう話なんだけど。

 

なんだ、それならそうと最初から言ってくれればいいのに。危うく僕は、友達を1人失うところだったよ。

 

まぁまぁ。それで、てんとう虫の話なんだけど。

数日前、夜寝る時に部屋の中で小さな羽音がしてさ。気になって部屋の電気をつけたら、ちょうど目の前の壁に小さなてんとう虫がとまっていたんだ。これが他の虫だったら、僕は金切り声をあげて全力で逃げ惑っていただろうけど、たかがてんとう虫1匹に驚くほど僕も人間ができてない訳じゃない。その時の僕は至って冷静だった。それで、そのまま普通に捕まえて逃がしてやってもよかったんだけど、僕は寝る直前で、既に布団に入っていたんだ。1度入った布団を抜け出すことがどれほど難しいことか、君にもわかるだろう?だから結局僕は、そのままてんとう虫を無視して寝てしまったんだ。

 

ふーん。それが初めての逢瀬だったんだね。

 

だから違うって!からかうのもいい加減にしてよ、薫くん。

 

ごめんごめん。ちょっと面白くて、つい。

それで、君は何が言いたいんだい?

 

ずばり、僕は最近、人間と自然の共生について考えているっていう話だよ。

 

君はいちいちスケールの大きい話を持ち出してくるね。

 

まぁね。きっと僕はそういう性なんだよ。

それで話は戻るんだけど、僕は部屋の中に虫がいると思った瞬間に、正直「自分はこの虫の生殺与奪の権を握っている」と思ったんだ。だってそうだろう?わざわざ住処を隔てているのに、向こうからこちらに乗りこんできたんだから。これは明確な領空侵犯じゃないか。だから僕は、この虫をどうしようと自分の勝手だと思ったんだ。

 

そうだね。君の気持ちはよくわかるよ。

僕も家にGが出たら殺すし、蚊に刺されたらその蚊を叩き潰すしね。なんなら刺される前に潰していることだってある。

 

そうだろう?でもよく考えたら、僕らもこうやって自然があった場所を人工的に改変して街にして暮らしているじゃないか。ということはだよ?僕らだってある意味、自然に生殺与奪の権を握られているんじゃないかって、そう思わないかい?

 

まぁそうだね。特に、最近は毎年のように自然災害のニュースを見るようになったしね。それによって亡くなられる方がいることも本当に残念だし、できればそういうことは無い方がいいと思っているよ。

 

うん。それに関しては僕も同じ意見だ。

だけどその一方で、我々も逆に自然の生殺与奪の権を握っていると勘違いしている節はあると思うんだ。自分たちが環境に合わせるのではなく、環境を自分たちに合わせて変えさせるみたいな、ね?僕ら個人は社会には適合しようと頑張るけれど、その外側にある自然に合わせようとは、そこまで思っていないんじゃないかと、最近僕はそんなことを考えているんだ。

 

ふーん、そうか。まぁ君の言わんとすることは何となくわかった。でも、君にはそんなことを論じる前に、まずやることがある。そのてんとう虫を外に逃がしてあげることだ。

てんとう虫がどういう理由で君と同棲するに至ったかは僕もわからない。けど、恐らく彼にとって、君の部屋にいることは不本意な事実だと僕は思う。家に帰ったら、彼を外に逃がしてあげなよ?

 

そうだね。

そうすることにするよ。

 

今日の1曲

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