音の巻
イヤホンがまた壊れた。
僕の使うイヤホンは決まって右耳側だけ断線するんだけどなんでなんだろう。
左耳だけで音楽を聴いていると頭が痛くなってくるので、壊れたイヤホンをゴミ箱に放る。
また新しいイヤホンを買わなきゃいけないのか。
百均のイヤホンだから短い命とはわかっているけれど、いざ切れると色々不便である。
おかげで今日の通学時間はいつもの1.5倍長く感じる。
まぁ寝てしまえば関係ないんだけどね。
ラジオドラマを作るようになってから、音により注意を向けるようになった。
日常の些細な音にもなにか意味があって、それを聞き漏らしてはいけないような気がした。
推理ものが好きで、足音だけで人を特定したり、人との距離を測れたらどれほどカッコイイかと思ったこともあるけれど、未だにそんなことができる気配はない。
せっかくイヤホンが切れてしまったので、いつもより外の音に耳を傾けながら歩く。
歩く音、走る音、バイクのエンジン音、公園の葉が風にそよぐ音、自転車のチェーンが回る音、車のウインカーの音、コンビニの店内BGM、鳥のさえずり、電車の冷房の音、つり革がきしむ音、ビニール袋がこすれる音、風の音、水の音。
こんなに世界には音が溢れているのかと改めて思う。
聞けば聞くほど新しい音が湧いて出てきて、僕の頭の中を駆け巡る。
あらゆるところから音が聞こえてくる。
音も生きていて、きっと意思もあるのだけれど、僕にはそれを理解する能力がないので、音は勝手にこっちに向かってきて、勝手にむこうに去っていく。
気持ち悪い。
何処も彼処も音だらけだ。
心理学の授業かなにかで、耳の感覚はずっと起きているみたいな話を聞いた記憶がある。
身体は寝ていても耳は起きている。
だから目覚まし時計の音は寝ていても聞こえるらしい。
本当なのかな。
僕の耳が勝手にあちこちの音を拾ってくる。
日常の雑音が僕の頭を覆い、僕はそれから逃れるように音の聞こえないイヤホンを耳に挿しこむ。
訪れる静寂。
ホッとため息をついて、僕は歩き出す。
ふと気づくと、どこからかドクドクと音がする。
キュッキュッと何かがこすれる音がする。
トントンとリズムを刻む音がする。
足を止める。
音が止まる。
足を動かす。
音が動きだす。
あぁそうか。
これは僕の音なのか。
音は生きている。
これは本当であってほしいな。