シャワーの巻
シャワーから溢れ出る水が、雨のように見えた。
煌めきもなく、ただ粛々と降り注ぐ雨。
嫌われることの多い雨を、どうやったら楽しめるのだろう。
雨を楽しむなら、裸足の方がいい。
靴下がぐちょぐちょになると、それだけで嫌な気分になる。
足裏を掴んだ雨水が、爪先から放物線を描いて飛び立つ。
ぴちゃぴちゃとひたひたが混ざり合う。
雨を楽しむなら、傘はあった方がいい。
布を叩く乾いた音が、湿った雨音と重なる。
傘が嫌になったら、閉じてしまってもいい。
2人で傘を手に取って、リズムをとって踊ればいい。
雨を楽しむなら、季節は夏の方がいい。
あたたかい雨が、手の甲に当たって花模様を描く。
柔らかく触れた手で、腕からすぅっと肩までなでる。
小指の先に溜まった雨粒が、再び雨を降らす。
ハンドルを捻ってシャワーを止める。
冷たい空気の、ささやかな誘惑。