延滞の巻
図書館で借りていたCDを返すのを、すっかり忘れていた。
正確には誤認していたと言うべきかもしれない。
元々、私が借りていたCDの返却日は一昨日だった。
しかし、私はその返却日を別の資料の返却日と勘違いしていた。なにせ、最近しょっちゅう図書館で資料を借りているせいで、何を何日に返すのか、わからなくなっていたのである。
それに気づいたのは今日の昼過ぎ。
電車の中で地元の図書館のホームページを見ていた時に、急に赤い大きな文字で「 返却日を過ぎている資料があります 」と表示されたことがきっかけであった。
まずい。今は出先だから、家に帰って資料を返却しに行くとしても、図書館に着くのは夕方になってしまう。これが返却日の次の日の午前中とかであれば、「ちょっと遅れちゃいました〜」くらいの気持ちで返しにいけるが、既に返却日からは2日が経過している。そんな軽い気持ちで返す訳にはいかない。
そんなことを考えながら、私は電車の中で冷や汗をかいていた。
夕方、家に帰ってCDを手にした私は、すぐさま図書館へと向かった。
どんな顔をしてCDを返せばいいのだろうか、結構しっかり謝らなきゃいけないのだろうか、などと考えている間に、返却カウンターの順番が回ってきた。
「あの、これ、返却お願いします…ちょっと遅れちゃったんですけど…」
私は蚊の鳴くような声で、半ば言い訳がましい言い方で延滞の件を詫びた(?)。
あぁ、司書の方は私のことをどう思うだろうか。
資料を延滞しておいて、そんな言い方でいいと思うだろうか。
いっそのこと叱ってくれないかと、私はそう思っていた。
しばらくの沈黙があって、淡々と資料の点検を終えた司書の方は、私に真顔でこう言った。
「返却が完了しました。ご利用ありがとうございました」
私は虚をつかれた気分だった。
せめて「次からは気をつけてください」とか、そういう一言くらいつけるのかと思っていたのに、まるで何事もなかったかのような対応だったのだ。
私はなんだかとても恥ずかしくなって、その場から逃げるように図書館を後にした。
次からは、ちゃんと気をつけよう。
服の隙間に冷たい北風が入り込んできた。