独り言

本当に独り言です

戦場の巻

銭湯は、時に戦場になる。

数少ない洗い場と狭い浴槽を巡り、互いに顔には出さないものの、水面下では激しい腹の探り合いが行われている。

 

今日行った銭湯は、洗い場に5つの蛇口のついた壁が4列あり、奥に最大10人ほど入れそうな浴槽のある、見た目の上では30人が定員の銭湯であった。

私がそこに足を踏み入れた時、中には既に12人程がいた。脱衣場の使用中ロッカーの数でなんとなく予想はついていたが、入ってみるとだいぶ混雑しているように思えた。

というのも、その時は誰も浴槽に浸かっておらず、12人全員が身体を洗っていたのである。

 

先程私は洗い場は20個の蛇口があると言った。

しかし、それらは隣人の水飛沫をもろにくらう距離で設置されているため、人々はひとつ飛ばしの席を選んで座ることになる。

結果的に洗い場の定員は事実上12人になり、そして今、それらは全て先客で埋められていたのだ。

 

この時点で既に負け戦かと思われたが、私もそう易々と負けを認める訳にはいかない。

私はそこで、洗い場にはいるものの、体を拭いているだけの2人組を瞬時に見つけ、そしてその間に滑り込むことに成功したのであった。

 

かくして私の洗い場の平穏は保たれた。

しかしまだ戦いは終わっていない。

次は浴槽を巡る戦いである。

 

体を洗い終わった者は、浴槽に向かうか脱衣場に向かうかのどちらかを選ぶことになる。

私は今何人が洗い場にいるのか、何人が浴槽に向かい、何人が脱衣場に向かおうとしているのかを、髪を洗いながら、体を洗いながら、タオルについた髪の毛を取る振りをしながら、逐一鏡越しに確認していた。

そして「今は6人が浴槽にいるけれど、あと5分くらいすれば半分くらいに減るだろうから、そのタイミングで入るようにしよう」とか、「今は2人しか浴槽にいないけれど、私が体を洗い終わる頃には3人くらい浴槽に向かいそうだから、意図的にゆっくり体を洗おう」といった戦略を練り、完璧なタイミングで浴槽に行けるよう調整を行っていた。

 

結果、私は浴槽が5人から3人に減ったタイミングで体を洗い終え、更に銭湯内に2つしかないジェットバスの位置も抑えることができた。

戦略の大勝利である。

 

そして、最後の戦いの舞台は、脱衣場であった。

浴槽から出て体についた水滴を拭き、脱衣場のロッカーを開けるタイミングで隣に人がいては、窮屈な思いをしかねない。

そのため、浴槽の中から自分のロッカーの近くに人がいないかを遠目で窺う。自分のロッカー周りが既に使用されていれば勝負は早い者勝ちになるが、使用されていない時は新しい客が入ってくる前にその場所を抑えなければならないのだ。

 

結果私は、新客が私のすぐ隣のロッカーに荷物をしまって洗い場に来るまで、実に15分の時間をジェットバスで過ごした。そしてその客がロッカーを離れた瞬間、私は勝ちを確信して浴槽を飛び出した。

しかしここで誤算が生じた。

15分の長湯のせいか、私は完全にのぼせきり、洗い場でダウンしてしまったのである。

そして、視界が晴れやかになった時には、私の真下のロッカーの扉が空いて、全裸のおじさんがパンツを探していたのであった。

 

銭湯は、時に戦場になる。

今日の成績は2勝1敗。私ももう少し鍛錬を積まなければいけないのかもしれない。

 

今日の1曲

yuigot & ぷにぷに電機 / Everywhere - YouTube