独り言

本当に独り言です

ある小路の巻

中学生の時になくなった、ある小路のことを思い出した。

 

私が住んでいた所は、緑の中に建物が立っているような、そんな団地であった。幼少の私にとって、小さな団地の敷地はそのすべてが遊び場のようであり、私も至る所で木登りを嗜んだり、虫取りに汗を流したりしていた。

 

その頃、私の同級生の間では「団地鬼ごっこ」というものが流行っていた。どんな遊びかというと、その名の通り団地の敷地全体を使った鬼ごっこである。

当時の我々は、なんとか鬼に捕まらないように団地内を駆け回ると同時に、鬼をまくためにありとあらゆる細道に精通していた。その中のひとつが、今日ふと思い出した小路である。

 

そこは、マンションとマンションの間にあって、雑草が生い茂り、小さな石や木の根がごろごろ転がっているような場所であった。ちょっとした生垣の隙間が入口になっていて、そこから建物の裏側の道路まで、生い茂る雑草の中に1本、全く草の生えていない道が出来上がっていたのである。

 

我々は「団地鬼ごっこ」の時だけでなく、学校に遅刻しそうな時にもその小路を利用していたし、時には自転車でそこを通ったりもした。買い物袋をカゴに入れた主婦が、自転車でそこを通り過ぎるのも何度か見たことがあった。

アスファルト舗装はされていなかったが、間違いなくあそこは団地の住民に“裏道”として認識されていたはずであった。

 

しかし、その小路も中学生の時になくなってしまった。

アスファルトで舗装されてしまったのである。

 

確かにあの道は多くの人に利用されていたし、舗装したことで自転車でも通りやすくなった。

でも、舗装されたことで、私の中にあったあの道を通る時のある種の高揚感のようなものは、失われてしまったのである。

 

あの小路は、舗装されていなかったが故に、我々の心をくすぐり、そして踊らせていたのだ。

それを利便性を追求して舗装したことで、あの道は本当に道になってしまった。

私は今でもそれが残念でならない。

 

今日の1曲

Kaoru Akimoto - Dress Down (Official Lyric Video) - YouTube