イマジナリーフレンドの巻
誰にも相談できなさそうなことを相談するために、架空の友達を作ることにした。
何を言っているかわからないかもしれないが、それでいい。ただ、見守ってくれればそれでいい。
名前から考えることにしよう。呼びやすく書きやすい名前にするなら、漢字一文字の名前がいい。
薫くん、とかどうだろう。エヴァンゲリオンの渚カヲルくんから取った名前だ。うん、これがいい。これにしよう。
薫くんは、高校の時の同期だ。
僕と薫くんは、クラスも部活も委員会も同じではない。ただ、僕が図書委員としてカウンターに腰かけている毎週金曜日の放課後に、唯一本を借りに来るのが薫くんであった。そして、それが僕と薫くんの唯一の接点だった。
薫くんとの再会は、高校を卒業して2ヶ月後、僕の地元のスーパーで、であった。その時、僕はスーパーの店員のアルバイトをしていて、薫くんはお客さんとしてスーパーに訪れていた。
声をかけてくれたのは、薫くんの方であった。
そして、薫くんは、僕の地元の大学に進学したこと、また、僕の家から自転車で5分くらい離れたところにある公園の裏の二階建てのアパートの一室でひとり暮らしをしていることを教えてくれた。
それから、僕は流れるように薫くんと連絡先を交換して、何がきっかけになったかはもう忘れてしまったが、しばしば薫くんの家に遊びに行くようになった。
僕は決まって金曜日の夜中に、彼の家を訪ねた。
薫くんの部屋は6畳1間で、敷き詰められた畳の上にはたくさんの本が積まれていた。部屋の真ん中に小さなテーブルが置かれていて、そこに座ると、窓の外に小さく月が見えた。
僕は薫くんと色々な話をした。互いに通っている大学の話から、身内の話、本当にくだらない話、時にはとても高尚なこと(本人たちが高尚だと思っているだけだが)を真剣に語り合ったりもした。
いつも話題を出すのは僕で、薫くんは基本的にそれを黙って聞く側に徹していた。そして、適切なタイミングで頷いてくれたり、自分の考えを述べたりしてくれた。
一通り話題がなくなると、僕たちはたとえそれが夜中の3時であろうと、散歩に出かけた。
そして、空が白んでくる頃にさようならをして、それぞれ寝床に戻る、そんな生活を送っていた。