どんぐりの巻
家の前でどんぐりを拾ったので、散歩に連れていくことにした。
家の前にぽつんとひとり。
細くて長いどんぐりを拾って右手で握りしめる。
小さな誘拐事件。
近くの小川に沿って歩く。
川を見るのは初めてかと問えば、初めてだと言うので、少しばかり川を見せることにする。
せっかくなので水もかけてやったら、如実に嫌な顔をしていた。これは失敬。
橋を渡ろうとしたところ、ちょうど橋の真ん中で2人目に出会った。
こいつは太っていて小さい。そしてひとり。
これも何かの縁ということで、そいつを今度は左手に包む。
しばらく歩くと、ひまわり畑に到着。
みんな既に元気はないが、それでも背は175cmくらいある。
私もすっかりひまわりに埋もれ、辺り一面ひまわりの茎ばかり。
役目を終えた彼らの姿に、少し尊敬の念を覚える。
手の中の2人は、完全にビビり散らかしていたので、そっと隠して先に進む。
ずっと行った先に、海の見えるベンチがある。
ここが今日のゴール。
2人との旅もこれでおしまい。
せっかくだから海も見せてやろうと、ベンチの上に2人を座らせる。
青い海と空にご満悦の2人。
それを尻目に、私は家路を戻る。
帰り道、手のひらに染みついた2人の感触を、何度も何度も思い返した。