葛藤の巻
私は見知らぬ人に話しかけるのが苦手だ。
なんなら話しかけられる時ですら、挙動不審になってしまうこともあるが、基本的には話しかけられるより話しかける方が苦手である。ポケモンみたいに、目が合った瞬間にバトルを仕掛けられるような世界であったら、きっと私の心臓はもっていないだろう。
そして、店員に話しかける、または話しかけられるという行為は、日常に最もありふれたハプニングである。店員は、話しかけてほしい時には話しかけてこないし、話しかけてほしくない時に限って話しかけてくる、そういう生き物である。
基本的に店員に話しかけられず、かつ自分から店員に話しかける可能性がほとんどない、コンビニやスーパーといった空間は非常に心地がいい。逆に小さめの洋服店はしんどい思いをすることが確実なので、絶対に足を運ばない、またはなるべく店員を避けるように買い物をするよう心がけている。
書店や家電量販店などは、時によっていい時と悪い時があるのでケースバイケースである。しかし今日はその悪い方が起こってしまった。
私は隣町のTSUTAYAまで自転車を飛ばしていた。
大学の授業で必要なDVDを借りるためである。
事前にネットで在庫を確認して行ったので、目当ての商品はちゃんと棚に存在していた。
しかし、ここで問題が起きる。レンタル利用の有効期限が切れていたのである。
レンタル利用登録をするためには、専用レジで店員に手続きをしてもらわなければならない。
それだけならまだいいが、私の持っているTポイントカードは、別の店舗でレンタル利用登録をしていた挙句、レンタル利用期限が失効してから既に1年以上が経過していた。
こういう場合どうすればいいのか、私はTSUTAYAの端っこで店員に声をかけられないように注意を払いながら、TSUTAYAの公式サイトを片っ端から必死になって確認していった。しかし、どの説明もなんとなく要領を得ない。
くまなくネットを見た結果、とりあえず今の店舗でも登録手続きはできそうだし、最悪店員の指示を仰げばどうにかなるだろうということまでは分かった。
問題は、私が店員に話しかけられるかどうかであった。
私は、レジカウンターが見えるギリギリの距離に立ち、あたかも棚に陳列されたDVDを見ているようなフリをしながら、レジの店員に話しかける機会を窺った。
私がレジの様子を窺っている間に、5人の客が会計を済ませ、3人の客が新たに来店し、館内放送ではNiziUの曲が3曲も流れた。
待つこと15分、レンタル利用登録専用レジが空き、なおかつ店員も1人、利用客も0のタイミングが訪れた。
私は意を決して店員に話しかけた。
「あの〜レンタル利用期gぇnぬが切れたのでsぁwi登録したいんですけど(ここまで一息)」