月食の巻
でも、心のどこかで執着していない自分もいた。
皆既月食のニュースは1週間前のニュースで知り、友人との会話でも話題にしていた。
今思えば、皆既月食という非日常感にミーハー心が踊らされていただけなのかもしれない。
夕方、空に厚い雲がかかっているのが見えた。
今日は無理だな、と私は思った。
天候なんてものは人間の意思で変えられるものではないし、雲がかかっていて見えないのであればしょうがない。雲に阻まれて天体ショーが見れなかったことなんて、過去にいくらでもある。そういう風に、仕方がないと諦めることは簡単になった。
でも、こうして執着を無くしたことは、粘り強さを失ったことも意味する。
幼少期の私であれば、皆既月食が見えるまでとは言わずとも、なんとか見えないか必死になっていただろうし、もしかしたら前日の夜からてるてる坊主を作っている可能性まであるかもしれない。
少なくともベランダに数分出て空を一瞥し、すぐに部屋に引き返すような浅はかな真似はしていなかったと思う。
今日、最後の少しだけではあるが、東京でも皆既月食が見えたらしい。
ネットの海に映った赤銅の月は、何の味もしなかった。