崩落の巻
空を見上げることが少なくなったような気がする。
視界に入らないという程ではないけれど、意識して空を見ることは段々なくなっているのかもしれない。
街を歩く時も、気がつくと自然と目線は足元に落ちている。
足元に何もないか、これから歩んでゆく道が確かに存在しているのか、そんなことばかり気にしているような気がする。
前はもっとゆとりがあって、刻々と変わりゆく空模様を眺めながら、物思いにふけることだってできた。
それなのに今は、そんなことを思う余裕すら持ち合わせていないみたいだ。
この前、AKIRAを見た。
鉄雄の幻覚で、街が、地面が、そして自分の体が崩壊していく様を見て、私も似たような恐怖に襲われた。
今まで当たり前のように存在していた日常が崩壊する瞬間、心の拠り所だと思っていた物がなくなる瞬間、そして自分と世界の境界線が崩れ、自我が形を持たなくなる瞬間、そんな瞬間がいずれ訪れるのではないか、明日訪れるのではないか、あるいは今訪れるのではないか、という不安、そして恐怖。
そういう小さな影が、私の心の奥底に眠っている。
私の足場はいつ崩壊してもおかしくない。
だから私は、呑気に空を眺めることもできないのかもしれない。